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千葉地方裁判所一宮支部 昭和52年(ワ)78号 判決

原告

小高征夫

ほか一名

被告

石野宣雄

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告小高征夫に対し金二六六万六一八八円、原告小高満さ子に対し金二六六万六一八八円及び右それぞれに対する昭和五一年一一月一一日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告両名の、その一を被告両名の各連帯負担とする。

四  この判決は、原告両名において各被告に対しそれぞれ金五〇万円の担保を立てることを条件として、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告ら)

一  被告らは各自原告両名に対し、それぞれ金五五〇万円及びこれらに対する昭和五一年一一月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

旨の判決並びに仮執行の宣言。

(被告ら)

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決。

第二当事者の主張

(原告らの請求原因)

一  事故の発生

原告両名の長男小高英晴(昭和四七年四月一日生)は、昭和五一年一一月一〇日午後一時ころ、千葉県夷隅郡大多喜町横山一一〇六番地先路上で、被告石野が運転する普通貨物自動車(以下、加害車という)に衝突されて、受傷し、同年同月一一日午前三時〇分死亡した。

二  責任

1 被告石野は、事故現場付近において、加害車を運転するに際し、前方に幼児である英晴がいたのを目撃していたのであるから、同人の安全に十分注意して進行すべきであるのにこれを怠り、漫然と進行した過失により、本件事改を惹起したものであり、英晴の死亡事故について民法七〇九条による損害賠償責任がある。

2 被告会社は、加害車を保有して自己のために運行の用に供していたものであるから、英晴の死亡事故について自賠法三条による損害賠償責任がある。

三  損害

1 英晴死亡による逸失利益 金二〇〇九万三九二九円

本件事故当時、英晴は満四歳の健康な男児であつたから、その逸失利益は、昭和五一年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計の男子労働者(学歴計、全年齢)の平均賃金年間金二五五万六一〇〇円を基礎として算出すると、次のようになる。

ア 年収額 金二五五万六一〇〇円

イ 就労可能年数 一八歳~六七歳まで

ウ 養育費控除 一八歳に達するまで一ケ月金二万円

エ 中間利息控除 ホフマン式による係数一七・六七七六三年(六七年―四年)の係数二八・〇八六

一四年(一八年―四年)の係数一〇・四〇九

右の差額は一七・六七七となる。

オ 計算式

〈1〉 2,556,100円×(1-0.5)×17,677=22,592,089円

〈2〉 養育費20,000円×12×10.409=2,498,160円

〈1〉-〈2〉=20,093,929円

カ 原告らは英晴の両親として右の金額の二分の一をそれぞれ相続した。

2 慰藉料 金一〇〇〇万円(原告一名につき金五〇〇万円)

3 葬儀費 金四〇万円

亡英晴の葬儀費の内金(原告両名が半分づつ負担)

4 右1、2、3の合計 金三〇四九万三九二九円

5 損害の填補 金一三六九万三三七五円

自賠責保険から支払われた逸失利益、慰藉料、葬儀費の内金(原告らの損害に平分して充当した)

6 右4より5を控除した残額は金一六八〇万〇五五四円であるところ、本訴ではその内金として金一〇〇〇万円を請求する。

7 弁護士費用 金一〇〇万円

被告らが任意の支払いに応じないため本訴提起を余儀なくされた弁護士費用内金(原告らで平分して負担)

8 右6、7の合計額 金一一〇〇万円

四  よつて原告らは被告ら両名に対して、亡英晴の死亡による損害賠償の内金として、金一一〇〇万円(原告一名につき金五五〇万円)とこれに対する事故の日の翌日である昭和五一年一一月一一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告らの認否)

請求原因一の事実は認める。同二の1の事実は否認する。同二の2の事実中、被告会社が加害車の運行供用者であることは認めるが、その余の事実は否認する。同三の事実中、原告両名が英晴の両親であり、英晴の逸失利益を二分の一宛相続したこと、自賠責保険から金一三六九万三三七五円の損害填補がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(被告らの過失相殺の主張)

本件交通事故は、満四歳の幼児である英晴がその祖父母である小高りん、同達雄と一緒に被告石野の進行道路の端を歩行中、突然車両の前方に飛び出し、被告石野は急制動をかけ避譲措置を採つたが、まに合わず加害車両後輪付近に接触したもので、被害者並びにその保護責任者たる祖父母の一方的な過失によるものであり、被告らは過失相殺を主張する。

(右に対する原告らの答弁)

被告ら主張事実を否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生と態様

原告ら主張の日時場所において訴外亡小高英晴(当時満四歳七ケ月)が被告石野運転の車両に轢過され、これによつて英晴が死亡したことは当事者間に争いがない。

いずれも成立に争いのない甲第三号証の六、八、九、一一、一五、甲第四号証の一ないし四、証人小高りん、同小高達雄の各証言、被告石野宣雄本人尋問の結果を総合すれば、次のとおり認めることができ、これに反する証拠はない。

1  本件事故現場は、一宮町方面から大多喜町方面に通ずる県道大多喜一宮線路上であり、車道幅員は約六メートル、南側に約一メートルの歩道が白線で区切されている。道路はアスフアルト舗装であり、一宮町方面から大多喜町方面に向かつてわずかな下り勾配をなしているが、直線で見透しを妨げるものはない。

2  被告石野は、普通貨物自動車を運転し一宮町方面から大多喜町方面に向かい時速約四〇キロメートルで道路左側を進行して本件事故現場付近に差しかかり、進路前方約六〇メートルの地点の道路左側を英晴と小高りん(当時五七歳)が、同距離の道路右側を小高達雄(当時六二歳)が一宮方面に向かつて対面歩行して来るのを発見した。被告石野は、そのままの速度で約二〇メートル進行したとき、英晴が道路越しに達雄に何か話しかけているのを認めたが、ことさら意にかけることもなくそれから約二〇メートル進行したとき、突然、英晴が道路の左側から右側にかけ出して横断するのを約一〇メートル前方に認め、急制動の措置を採ると同時に右にハンドルを切つたが及ばず、自車後輪で英晴を轢過した。

3  一方、小高達雄、同りんの夫婦は、孫である英晴と有香(当時二歳)を連れて農作業に行くべく、大多喜町方面から一宮町方面に向かい、当初、りんが有香を背負つて先にたち、その後を達雄と英晴が歩いて道路左側(石野進行方向からは右側)を歩行していたが、しばらくしてりんは道路の右側に移つた。その後も、英晴はしばらく達雄と一緒に道路左側を歩行していたが、そのうち、りんの後を追つて道路右側に移り(この時期は達雄、りんともに気付いていない)、事故現場まで来て突然達雄のいる道路左側に行こうとして横断をはじめたため、被告石野運転車両に轢過された。

4  右事実によれば、被告石野は進路前方の道路端に満四歳余の幼児である英晴が立つて祖父の方を向いて何かを話しかけているのを認めたのであるが、このような場合、事理弁識力に乏しい幼児が突然道路を横断するというような不測の行動に出ることはままありうることであるから、被告石野としても、このことがあることを予見し、その動静に応じた適宜の措置をとることができる程度に減速又は徐行すべき注意義務があると考えられ、本件事故は被告石野の右のような注意義務を怠り、英晴の動静に注意することなく同一速度で進行した過失によつて発生したものといわざるを得ない。

5  しかしながら、一方、本件事故は英晴の路上への突然の飛び出しもその一因となつていることは否定できず、右は英晴自身の過失か、或いは英晴自身については、当時満四歳という年齢から事理弁識力を前提とする同人自身の過失が否定されるとしても、当時英晴に同伴していた祖父の小高達雄及び祖母の小高りんが幼児である英晴の行動に充分注意し同人を安全に歩行させる等の注意を怠つた過失もその原因となつているものというべく、結局、本件事故は被告石野の過失と被害者側の過失が競合して発生したものというべきである。

二  被告らの責任

前記のとおり、本件事故が被告石野の過失により発生したものであることが認められ、被告会社は加害車両を保有し自己の運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがないので、被告石野は民法七〇九条により、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により本件事故による損害を賠償すべき責任があり、被告両名の責任は不真正連帯債務の関係にある。

三  亡英晴の逸失利益

成立に争いのない甲第一号証及び原告小高征夫本人尋問の結果によれば、英晴は本件事故当時満四歳七ケ月の健康な男児であつたことが認められ、本件事故にあわなければ、なお六八・七九間の生存が推定され(昭和五〇年簡易生命表による)、満一八歳から満六七歳まで四九年間の稼働が可能であると推定される。そこで、本件事故にあわない場合の同人の得べかりし利益を次のとおり算定する。

(1)  稼働期間、満一八歳から満六七歳までの四九年間

(2)  稼働開始までの期間、一四年間

(3)  稼働開始時までの養育費、一ケ月金二万円

(4)  稼働開始後における生活費、収入の二分の一

(5)  稼働期間における収入、一ケ月金一六万六三〇〇円、年間賞与その他の特別給与額年間金五六万〇五〇〇円(昭和五一年度賃金センサス第一巻第一表企業規模計学歴計男子労働者平均賃金による)

(6)  現価換算方法、法定利率による単利年金現価表(ホフマン式計算方法)による。

(7)  計算

(166,300円×12+560,500円=2,556,100円)×1/2×(28.086-10.409=17.677)-20,000円×12×10.409=20,093,929円

四  原告らの相続

成立に争いのない甲第四号証によれば、亡英晴と原告征夫、同満さ子の身分関係が原告ら主張のとおりであることが認められ、これによれば原告両名は英晴の死亡により右三の損害賠償請求権をそれぞれ二分の一の割合で相続したものというべきである。

五  葬儀費用 金四〇万円(原告ら各自について金二〇万円)

原告小高征夫本人尋問の結果によれば、原告両名は亡英晴の葬儀費用として約金五〇万円を支出したことが認められるが、頭書金額を本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。

六  原告らの慰籍料 金六〇〇万円(原告ら各自について金三〇〇万円)

亡英晴と原告らの身分関係、英晴が死亡したときの年齢、原告らの家族構成その他の事情を考慮し、英晴死亡による原告らの慰藉料として頭書金額を相当と認める。

七  過失相殺

前記認定のように、本件事故の発生には被害者側の過失もその原因となつているものであるから、それを損害額算定について参酌し、原告各自の損害合計金一三二四万六九六四円から各三割を減ずると、その損害額は原告各自について金九二七万二八七五円となる。

八  損害の填補

原告両名は英晴の死亡により自賠責保険から総額金一三六九万三三七五円を受領し、これを平分してそれぞれ金六八四万六六八七円(円未満切捨て)を取得したことは当事者間に争いがないから、これを前記各損害額金九二七万二八七五円から控除すると、残額は原告ら両名についてそれぞれ金二四二万六一八八円となる。

九  弁護士費用 原告ら各自について各金二四万円

原告小高征夫本人尋問の結果によれば、原告らは本件訴訟の提起追行を弁護士である本件訴訟代理人に委任し、規定の報酬等を支払う約束をしたことが認められるが、右弁護士費用として前記認容額の約一割である各金二四万円を本件不法行為と相当因果関係のある損害と認め、これを前記各損害額に加算することとする。

一〇  以上のとおり、被告らは各自原告両名に対し、それぞれ金二六六万六一八八円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五一年一一月一一日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うので、原告らの本訴請求を右の限度で認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木昌隆)

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